姉には旦那さまがいる。
とても実直で真面目なご主人で、姉は良い人と結婚したなと思っていた。
ところが、そのご主人が、病気のことを全く理解してくれない、と
電話練習の当初、姉が嘆くことがたびたびあった。
姉の病気は姉との練習①に書いたように、
「線維筋痛症」という難病で、治るというのは難しい。
痛みを抱え、コントロールしながら
痛みが強まらないような生活をしていくのが一般的な見解だ。
医師からそのように伝えられていた。
ただ、姉からは思いのほか、
治らないことへの葛藤のようなものは繰り返しは聞かれなかったが
夫が自分の病気のことを理解してくれない、
入院したり、実家で静養したら
治って戻ってくると思っていることを何度か嘆いていた。
私としては、実のところ姉に対してよりも
姉のご主人の方に胸が締め付けられるような心苦しさを持っていた。
自分の妻が、痛みで自由に動けず、家事もほぼできない。
そんな中で、一家の大黒柱として家業と
姉ができないほとんどの家事と、
まだ小学生の子供の世話をしなければならない。
その重圧は計り知れないものがある。
将来に渡り、姉がそのような状況から良くなることを望めないという現実は
容易に受け入れられるものではないだろう。
私は姉の「夫が自分の病気を理解してくれない」という嘆きを
30分聞いた後、
「ここからは看護師として思うことだよ」
と、私の考えを話した。
家族の一員が病気になって、心が揺れない家族はいないこと
家族にも病気の受け入れには段階があって
衝撃から否認、退行、諦めなどの経過を経てから
ようやく受容に至ること等を話した。
これは、病気や事故など危機状態に直面したときの防衛反応といえる。
ご主人は、病気を理解できない頑固者なのではない。
耐え難い現実を、どう受け止めるか。
それまでの受け入れのプロセスの途中にいるのだ。
しかも、ご主人の苦しい思いは誰が受け止めているのか?
そのような人や状況があるのかわからない。
一人で苦しさを抱えているのだとしたら、なおのこと苦しさも増し、
受け入れるまでに時間がかかる。
看護師の立場として伝えることにより、姉にご主人の状態も理解できるよう促した。
病気の姉、痛みを抱えている姉が自分の苦しみをわかってほしいというのは理解できる。
ただ、家族もそれぞれに姉が病気になったことで姉とは違う苦しみを味わっていることを
姉にわかってもらいたかった。
同居している家族ばかりではない。
妹である私自身も
心が揺れ、心配し、何とか良くならないかと思って動いてきた。
姉とカウンセリングの練習と称して対話を続けようなんて
痛みとともに過ごさなければならない病気に姉がなったからゆえだ。
おそらく、姉のご主人の方のご両親や兄弟なども、全くの他人事ではいられないはずだ。
「そっか、そんなふうに考えたことなかったわ」と姉は言った。